アキバから黄色い電車に揺られて約一時間あたりに俺の家はある。そこはかの新撰組の土方歳三を排出したとか、新撰組の副長を出したとかなんだかんだで有名な地域だ。そこに俺と兄貴はふたりで住んでいた。いや、親と死に別れたとか、生き別れたとか、そーいうワケでなく、親は離れに住んでいる。逆か。俺と兄貴は離れのプレハブのような建物に住んでいた。基本的に昔から兄貴は引きこもって、実験だかなんだかをしている。夜でも構わずやるものだから追い出されたんだ。俺はその巻き添えで二個建てられたプレハブ部屋の片方に住んでいるというわけだ。

「おい兄貴!帰ったぜ!」

 ガシャガシャドタバシャン

 部屋の中から慌ててモノをひっくり返したような音がする。

「おかしいなあ~警報はどーしたんだ?」

 兄貴は薄々お気づきのように、少し変わっている。いや、少しじゃないか。まあ、一般的に言えば変人だ。その変人兄貴は世界のあらゆる一般的な変人と同じように、いや、それ以上に用心深く、プレハブ小屋の周囲にありとあらゆる警報システムを設置している。もちろん自前だ。人の耳には聞こえない超高周波警報や赤外線警報ライトなど、なんの役に立つのか分からないアレコレで完全防備している。それがドアの前まで俺が来たのに気づかないなんて、あり得ないことだった。

 ガチャリ……
 扉がうすーく開いて兄貴が顔を少しだけ出した。

「なんだヒロか。なんか用か?」
「な・ん・だ・と!てめーのせいで俺は大変だったんだぞ!」
 言ったものの、そんなのは通常運行だ。さっき言ったことも時々忘れちまう兄貴だから、こんなコトで一喜一憂しちゃダメだ。

「なんか用かだと?ほらコレ!例のブツだ」
「ん……ああ、そうか……そうだったな。助かった。じゃな」
 兄貴の野朗、薄く開かれた扉の隙間から俺から品物を受け取ると、そのまま扉を閉めやがった。

「じゃねーし!入れろよ!降り積もる話があるんだよ!」
「ん?ああ今度な。今日は、今は忙しいんだ」

 俺はアキバ話を三倍盛りくらいで伝えようと、帰りの道道考えていたというのに一瞬で拒否られた。

「ちっ わかったよ!いいか?貸しだぞ?貸し!」

 どうせこうなったら扉を開けるような兄貴じゃない。俺はスゴスゴと自分のプレハブルーム、マイスイートプレハブルームに帰った。
 その日の兄貴はやはり変だった。夜中に音がしたんだ。誰かが来たらしい。なるほど、そのためにセンサーを消していたんだろう。しかし、兄貴の部屋に人が来るなんて珍しい。というか初めてじゃないのか?と思いながらも俺はいつの間にか寝てしまった。


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