お使いのミッションを完璧にこなした俺は、次の指令、『アキバの探索』へと出かけることにした。なんでも兄貴いわく、「超絶実験をするので夜まで帰って来るな!」というのだ。だから、アキバでもぶらつけと。まあ、俺だってせっかく電車に揺られ一時間、やってきたアキバなのでブラつこうと思っていたところだ。そして、兄貴のアキバ紹介メモを見た。

(なお、これはぜんぶ兄貴の個人的なひじょ~~~に狭い意見なのでご了承ください)

【決定版☆これがアキバだ!】

 そもそもアキバと呼べるのは、南北で言えば万世橋から蔵前通りまでだし、東西はもっと狭い。東はハッキリ言って山手線までだし、西は昌平橋通りまでだ。
 ちなみに昌平橋通りの正式名称は都道452号線白山線で、銭形平次の碑があることで世界的に有名な神田明神(正式名称神田神社)からはじまり、つぎつぎと名前を変える出世魚のような不思議な道だ。
 まー素人はまず中央通りを上野方面に流すわけだが、蔵前通りまでくるともはやそこはアキバじゃねえ。西暦1956年(昭和31年)「もはや戦後ではない」と政府機関が言ったのも頷ける。そこは「もはやアキバではない」のだ。
 だいたい、そのあたりまで来ると、切腹とか書いたTシャツを着た空気の読めないアメリカ人に「アメヨコドコデスカ~?」って聞かれかねない。気分はまさに上野って感じだ。ちなみに、アメ横に行ったら、なぜかいつも天津甘栗を買ってしまうのは内緒だ。とても美味しいが夕方に行くとさらに安くなっていたりするから気をつけろ。
 あー、あと注意したいのは、上野公園(正式には上野恩賜公園)にある西郷隆盛象の西郷さんが連れている犬は柴犬でもなければ土佐犬でもない、薩摩犬やら言うらしいので間違えるなよ……

「ま、まるで意味がわかんねえ。てか、意味がねえ」

 俺は最初は財布の中身を見て、密かにノートPCでも買ってやろうかと目論んでいたが、さんじゅうぎょまんのガラクタ購入でその計画は撃沈されていたので、代わりの獲物を探していたのだ。

「こ、こうなったら財布の中身は一文残らず全部使い果たしてやる!」

 決意を新たに、蔵前交差点から中央通りを一本奥に入った裏道をアキバ駅方面に引き返した。

「たしか、このあたりは怪しいストリートだったハズだ!」

 だがしかし、その通りにはガラクタしかなかった……いや、俺にとってだ。この多感な十代の好青年、泉谷ヒロトにとってのトキメキはそこには無かった。トキメキはもう少し駅に近づかなければならなかった。

「うおー!コレだ!コレ!」
 俺は年甲斐もなく、とある店の前で叫んてしまった。
「お、さすがはお客さま!限定一体!今ならお持ち帰りになれますよ!この原寸大の魔王少女まどか!」

 コスプレってほどではないが、アキバ以外で見たら、ちょっと浮いてそうな制服姿の店員がスグに寄ってきた。赤い髪にメガネ、そばかすがキュートな女の子だ。
 そうだ、この値段ならイケる。何がイケるのかは、言えないが、俺は自暴自棄になっていた。俺のような内面だけが俺様で、外面はボク……って感じの人間が自暴自棄になるとこえーぞ!気をつけろよ。

「コレください」
 俺は言ってやった!しかし、俺はその時、フィギュアの値段を一桁見間違えていることに気がついた。
 が、間一髪、コンマ3秒くらいの差でその脇にあったものを指さした。やったぜ兄貴、これで等身大フィギアをどうやって持って帰るのか考えずにすむぜ……
「はい、まいどー」
 すぐさまその店員はその残り一個しかない袋をとり、俺の手をつかんでレジに向かった。一応、その商品を見てると入浴剤のようだった。

「ユルスギルスの素?暗黒ノ入浴剤?……ま、いいか……」
 しかし……
「19,800円になります」
 そばかすスタッフ赤毛ちゃんはそ~言うのだ。
「え?そ、そんなに……」
「はい!安いでしょう?よそじゃあ、まず、手に入りませんよ!」
 屈託のないその笑顔でそう言われたら……信じるしか無い。
「で、ですよねえ~ハハハ」

 安物買いの銭失いって話は聞く、だが俺は違う。だって、安物なんて買ってないもんな。
 しかし……や、ヤバい、この後、萌えるゾンビカフェに行ったり、おでん缶食べたり、ドネルケバブ食べたり、最後の締めは「ニクの万世」という予定だったが……予算が……危ないのかもしれない。いや、おでん缶は買えるか。ケバブって幾らだ?いやいや、そんなことより戦利品がほしい。暗黒ノ入浴剤だけじゃ……なあ~

 とりあえず、出来ることからコツコツと!に計画方針を変更した俺は、おでん缶2ケとドネルケバブを平らげると財布を確認した。
「こ、これじゃ何も買えんな……」

 残りは五百円玉一枚だった…………



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