「と、とりあえず整理しよう。千歳は石とやらをとりに来た。リリスはスマホを届けに来た。ここまではいいよね?」

 沈黙に耐え切れず、俺は切り出した。

「私はそ~だけど、リリスはどうなの?」
「……そんなところ……」

 千歳は『本当かしら?』といった感じに首を横に振ったが俺は先を続けた。

「そもそも、二人が何者でどこから来たのかも気になるケド、一応順番で未來さん?君は何だっけ?」

 俺が尋ねると、千歳もリリスも未來の方を見た。しかし、それでも未來は表情を変えることなく、こう告げた。

「私はアンドロイド。ハルさんによって創りだされた異世代アンドロイドの未來です。目下の目的は……ヒロト、貴方をこの者達から守るためにここに居るのです。得意技はズバリ唄!一曲歌いましょうか?」

「は……い?」

 その場はしばらく沈黙に包まれた。千歳はもちろん、リリスの顔もこわばってゆくのが分かる。だがしかし……俺にはやっとわかったことがあった。アンドロイドで緑髪のツインテール……それで、名前がミクだ……兄貴のヤツの趣味だ。だがしかしだ、すくなくとも兄貴……その名前やめろよな。直球すぎるだろーが!でも、こんな人間そっくりのアンドロイドを作れるのか?兄貴は。

「ちょっと待って……ハルって……」
「俺の兄貴」
 その沈黙を破り最初に話し始めたのは千歳だった。
「私の石って……」
「兄貴に渡した」
「それで……コレを作ったのって……」
「ハルさんです。そして私はコレではなく未來です」
「…………」
「どお……したの……です?」

 困惑の表情があふれんばかりの千歳を見かねてリリスが問いかけた。

「えへへ~~~。さ、私、そろそろ帰ろうかな~」
「どおしたと……きいているのです」
「リリス~~~たしかさ~魔石ってさ~電気通すと……ダメだったわよね?」
「当たり前でしょう!暴走するわよ!」

 リリスの口調が少し変わったが、また自分を取り戻したようにつづけた。

「今は……そんな……話ではないのです。この……未來……さんと兄貴さんがどおしたか?……です」
「えへへ~~~、ミックちゅわ~~~ん、もう一度後ろ向いてくれるかしらん?」

 千歳がまた壊れた。コイツ、どんなキャラしてんだ?
 しかし、未來も言われたまま背中をふたりに向けた。未來よ。君、素直すぎ!

「ほら、ココ。たぶんこのあたり……何か見えない?アンタの魔視(スキャン)で」

 リリスは左目の包帯をとると、右目を閉じながら左の瞳をひらいた。その瞳は赤く光って見えた。そして千歳が指差す未來のクビの付け根あたりを凝視した。

 !

 今度は明らかにリリスの表情が変わった。
「魔石を……発動……させて……しまった……のね」
「わ、わ、ワタシじゃ無いんだからね!コイツよ!コイツ!」
「なんだか分かんないけど俺は関係無いだろ!」
「ウルサイ、ウルサイ、ウルサイーイ!かなりヤバイのよ?アンタ分かってるの?」
「分かってるわけないだろ!何がなんだがサッパリだよ!」

「アブナイ……」
 リリスは昨日の夜と同じ口調でそう言った。
「貴方に迫っていた危機は……これだったのね……でも……おかしい……」
「そう言えばそーね。未來ちゃん、アンタの製造日って?」
 今度は千歳がリリスの言葉を受け、未來に尋ねた。
「昨日」
「昨日?……なんで爆発しないの?」
「さあ……」
「あのさ!誰か分かるように説明してくれよ!」

 混乱に頭が破裂しそうな俺の叫びに応えたのか、リリスは淡々と、独り言のように説明しはじめた。それによると……リリスと千歳はマークゥワイという異界から来たという。ふたりはともに、マークゥワイから持ちだされたマーティムと呼ばれる力を持ったアイテムの回収に来ているらしい。しかしリリスが正規の回収者(アンダーテイカー)なのに対し、千歳は賞金稼ぎ(バウンティハンター)といったところらしかった。そして千歳が密かに持っていた貴重なマーティム、魔石と呼ばれる石が未來のメインCPUとして使われたというのだ。

「だいたい、なんで魔石をこの者に託したりしたのです?」
「だって~、あの日サルベージしてた店に突然サリーマンの連中が現れたんだもの~」
「彼らに渡せばよかったのに……」
「いや、ほら……サリーマンってケチでしょ?」
「ケチって言っても公務員(リーガル)なんだから、指定通り支払うでしょうに……」

 サリーマンというのは、昨日、秋星電影に俺の後ろに居た背広の男達のことだった。彼らは強制捜査官で否応なしにマーティムの回収をしていくのだという。千歳は彼らに渡したくない一心で、俺の荷物に魔石を混ぜ、あとで回収するつもりだったのだ。それがこともあろうに兄貴の手に渡り、しかも使われてしまった……

「でも、問題はそれより、なぜ未來さんが熱暴走して爆発しないか?ね。まあ……してたら、ここら一帯が消し飛んでいるのでしょうけど……」

 そう言いながらリリスが部屋を物色しはじめた。

「なんで……こんなものがここに……」
「なに?なに?リリちゃん何か見つけた?私、帰っていい?」
「いいわよ……」
「え!ほんと?」
「最終的な魔石の所有者にして、未開の地での紛失者(ルーサー)として貴方の名前を登録していいならね」
「や、ヤダな~~~冗談よ、冗談!そしてルーサー登録なんて冗談じゃない!マークゥワイで二級市民扱いなんていやよ!で?何を見つけたの!」

 リリスは俺の唯一のアキバの戦利品『ユルスギルスの素』の袋を持っていた。

「あ!なんで、それがココに!」

 思わず俺は叫んだ。

「これも……あなたの?」
「そうそう、昨日アキバで買わされた……いや、買ってきた入浴剤」
「そう……よかったわね。お風呂なんかに入れなくて……」
「なんで?」
「こんなのに入ったら、絶対零度で死んじゃうから……」
「なに?なになに?って、あ!これ!高純度の暗黒水(ブラスイ)の素!末端価格にしたら……いやいやいや怖い怖い怖い。もうほとんど残ってないじゃない!シンジケートが追ってくるわよ!」
 覗きこんだ千歳が部屋の中をあっちこっち右往左往している。
「未來さん……貴方……これ、飲んだ?」
「ハイ!私が高熱を出しましたところ、ハルさんがコレを飲みなさい。といってくれたのです」
「なるほどね……そして……」
 ガシッ
「あんっ」
 リリスは突然、未來の左胸を鷲掴みにした。
「そして、ここには黒球(ブラガン)が埋め込まれている……脳の代わりに魔石、血液の代わりに暗黒水(ブラスイ)、心臓の代わりに黒球(ブラガン)とはね……」
「あっ 痛いです」
「あら、ゴメンナサイ。未來さん?ちょっと手をあげて『ハデス!』って言ってみてくれるかしら?」
 そう言ってリリスは未來の手を上げた。

「分かりました。ハデスです!」

 ヴォワッフゥ!

 すると真っ黒な光が未來の手から生まれ、闇を切り裂いた。

「ちょちょちょちょ!なにしてくれてんのよアンタ!死ぬトコだったでしょ!」

 その閃光は、ちょうどその線上にいた千春の髪を少し焦がしたようだった。

 千春の叫びも虚しく、リリスは強い口調で言い放った。

「みなさん、良いですか?コレよりココは戦場となります」

「いいわけ無いだろーーー!」

 俺も叫んだ……もちろん心の奥底で……


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