進化系!アキバリズん(完結)(AKIBA賞応募)

今、超電波都市アキバ!にひとりの男が降り立った。 そのことからはじまる新たなエレクトロニカルファンタジー

ララノコン

(15)決する時間

「い、い、いったい……なな、なんなんだ、なんだってんだよお~ はあ はあ はあ」

「鬼ごっこみたいですよ?」

 未來が涼しい顔で言う。てか未來……走り方が……ちょっと奇妙で、なんというか歩いているようなのに速い。

「鬼ごっこですって?てかアンタ遅い!置いてくわよ!」
 千歳も速い。というか、俺以外は皆、楽々走っているように見える。
「ミ、未來さん……だ、誰が、誰を、追いかけているんです? はあ はあ はあ」
「追いかけられているのは私みたいですね」
「え?」
「試しに皆さん、そこで止まっていてくれます?」
 俺は怖かったものの、疲れきっていたので止まってしまった。

 未來はさっきまでと同様、涼しい顔で集団の先頭のちょっと先を走っていってしまった。その好きにスマホでチェックしてみると、確かに未來の画像があり
「アキバで鬼ごっこ!はじまるよ!この子を捕まえて!」
 と書き込まれていた。
「にしても、そんな鬼ごっこくらいで群がるかねえ」
 千歳の疑問も当然だった。だが……
「賞品は千歳と一日デート!ってなってるけど?」
「え!えええええーっ!茜のヤツ!肖像権のプライバシーの著作権の侵害で訴えてやる!」
「そんな問題かよ……しかし……未來はどこいった?」
「あっちに……見えるの……未來さん……じゃない?」
 確かに未來がさっき消えた方とは反対側から現れた。どうやらあたりを一周してきたようだ。未來は当然、相変わらず息も切らさなかったが男どもはもはや死に体だった。
 しかし……よく見てみれば、その最後尾には例の赤女がいた。

「ま、まったくもう! はぁ はぁ はぁ つ、つかえない はぁ はぁ 連中ね!」
 一緒になって走っていたのか、赤女もすっかり息が上がっていた。
「茜!あんたプリンはどーしたのよ!」
「リリス!や、やば!バトルモード!」
 赤女茜はリリスを見るなり、叫びながら地面に取っ手のようなものを突き刺した。そしてそれを引き上げると、真っ赤で薄っぺらいジェラルミンケースのようなものが現れた。それを開くとガシャンガシャンと音を立ててそれは広がり、茜のカラダを包み込んでいき、やがて茜の両手、両足、そして頭に銃口のようなものが装着されていた。それもすべて真っ赤だった。

「あ~一応言っておくけど、アンタ下がったほうが身のためよ」
 千歳が俺に向かって言ったようだ。
「へ?あ、ああ、そうだね。あんなの怖いよね」
「いやいやいや、茜は大したことないわよ。それより本当に怖いのはコレ」
 千歳が指をさした瞬間、リリスの真っ黒な服全体にあしらわれたギザギザがジャキン!と音を立て、無数の真っ黒な剣のようになった。

「いいの?リリス!こんなところで千本手刀なんか広げて!」
 見るからに茜も焦っている。
「大丈夫よ!こんだけ人間がいるんだから少しくらい消えたってわかりゃしないわ!」
「あ、あぶねー」
「だから言ってるでしょ。リリスはホントにやるわよ。下がりなさい!」

「ちっ 先手必勝!」
 茜は叫ぶとこちらに向かってかけ出した。
「チャーーーーーーーーーー ハァッ!!!!!」
 ヅダダダダ
 手を出し叫ぶと、何か赤い弾丸が発射される。
「ハァッ!!!!!」
 ダダダダダッ
「おおーーーっ」
 そしてその度に男たちから声が漏れた。見れば弾倉が充填されるたび茜のカラダを包んでいる赤いドレスが剥け小さくなっていくのだ。どうやらドレスそのものが弾になっているようだった。
 一方、リリスはその広げた暗黒の千本手刀が卵を守る親鳥の羽のようにリリスをつつみこみ、赤い弾丸をつぎつぎに跳ね返していた。

「ちっきしょーっ あ!アレなに?」
 茜が上の方を指さしたのでみんなが見上げたが、それはフェイントのようでリリスはまったく動じなかった。
 が、茜がニヤリ、と笑ったかと思うと頭上のビルの屋上に掲げられた看板がユックリとズレ、落下しだした。
「ひゃっ ヤバイ」
 俺は思わずその場にうずくまったが、千歳も未來もまっすぐ立ったままリリスを見ている。だから俺もその視線を追いリリスを見るとリリスは首を少しひいて見上げるように茜を睨んだまま低く落ち着いた声で言った。

「デトロイト・ブレイク!」

 すると、落ちてきていた看板は空中に停止し、少し、間を置いたあと茜の方へジリジリっと移動した。

 ズガガガガガガガーーーーッ

 かと思うと次の瞬間、加速しすっ飛んで行った。周囲の他のゴミやら看板やら人やらを巻き込んで……
 茜の上に出来上がった小山に向かってリリスは無言のまま歩いてゆくと、右腕を背中に大きく反らせ、その勢いで手刀を突き刺した。

「あっ そこまでしなくても……」
「いいからアンタは黙ってなさい」
「ち、千歳、で、でも……」
「ほら」
 千歳がアゴで指すのでもう一度リリスの方に目をやると、リリスは突き刺した手を引き抜いた。その先には茜の襟元をつかんでいた。
「茜!あんたミムプリン、どーしたの!」
「ご、ごめんなさ~~い」
 茜は今度は猫撫で声で謝りだした。

「ねえ~さっきからプリン、プリンってなんなの?プッチン的なやつ?」
「はぁ~? って知るわけ無いか。茜はねこのアキバリズンの監視者なのよ」
「は?アキバリズン?」
「……面倒ね。説明すんの」
「いやいや、カワイイ千歳ちゃん!お願い、教えて!」
「ま、まあ、そこまで言うのならしかたがないわね……」

 渋々?ニコニコしながら説明しだした千歳によると、アキバというのはやはり磁場的に不安定であり、マークゥワイとのホールができやすいというのだ。
 そのため、そもそも何もなかったこの地域を流刑の地とし、こちら側に建てられた施設がアキバリズンなのだという。要するに監獄だ。
 しかし、やがてマークゥワイ人の奇妙ないでたちに惹かれた人間が集まりだすと、監獄は廃止された。しかし、ときどき脱走犯がいるためそれを監視する施設だけが残されたというのだった。

「で?プリンってなんなの?今の話と関係あるの?」
「うっさいわねアンタ。今からそれを言うところでしょ!だまって聞きなさいよ!」
「ハーイ」
「つまりアキバリズンの監視役が茜で、最重要監視対象がミムプリンってワケよ!わかった?」
「……いや、ぜんぜん」
「はぁ? なんで分かんないのよアンタ!頭沸いてるの?」
「いや、だからプリンって何?って聞いてるんだけど……」
「ミムプリンでしょ!知らないの?!」
「うん。だからさっきからそ~言ってるんだけど……」
「もう!無知なんだから!ミムプリンって言ったら、世界最強、いや最凶のCKS!つまり超危険生物でしょ!」
「…………」
「ほら!これよ!」
 千歳はそういうと写真を見せた。そこにはネコより一回りくらい小さくて、ピンク色の毛が羊のようにくるくるしていて、うさぎのような耳の生えた小動物が写っていた。
「か、カワイイ……」
 男の俺でさえ、思わずそう言ってしまうようなつぶらな瞳だった。
「……お人形さん遊びといい、アンタほんとキモいわね。ミムプリンよ?ミ・ム・プ・リ・ン!あの、世界を破滅に導くと言われるミムプリンよ?」
「世界を破滅ねえ……てか、なんでそんな可愛らしい名前なんだ?」
「そのミムプリンが逃げたなんて……」
 千歳の表情を見る限り、ウソでも冗談でもなさそうだった。

「なんてことなの!逃げられるなんて!」
「いやあ、逃げられたっていうか、盗まれたっていうか……」
 リリスに問い詰められると茜は小さくなってしまった。
「誰に!?」
「ハミルに……」
「え?」
「それで、そこのアンドロイドをダシにしようかと思って……」
「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーもうっ!」

 ぱーーーんっ!

 と、リリスの装備がはじけて元に戻った。

「一度戻るしか無いわね……マークゥワイに……」
「じゃ、私はこれで~」
 逃げようとするも、茜も首根っこを掴まれたままだった。
「アンタも戻るのよ!」
「私は?」
「アンタも!」
 こうして、三人はドコへやら消えていった。たぶんマークゥワイなのだろう。

「アンタ、ハミルがもどったら連絡すんのよ!」
 とメアド交換をしてから……

「ハミルって……」
 独り言をつぶやくと
「ハルさんですね」
 と未來が言った。

 チャラン チャラン チャ チャ ランチャ~

 するとメールの着信音がした。

「なんだ?リリスか?」
 と思って開くと
「ヒロト―、ごめん~~~ぬけられなくなっちゃった~助けてくれ~~~~い」
 ……そこには変なぬいぐるみを抱いた兄貴の自撮り写真があった。
 写真の背景にはBROADWAYという看板が見える。

 俺は思った……

「次は中野だ!ブロードウェイだ!」

 って、誰が行くか!バカ兄貴め!

 新しい物語の始まりに不安を感じながらも、俺は家路へとついた。背後に未來の視線を受けながら……


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(14)インフェルノ

「んで?アキバのどこに行くの?」

 電車に乗ると、なぜか千歳は俺に聞いてきた。

「おーい!聞こえてる?もしもーし!」

 俺は車内では少しだけ距離をとって反対側を向いていた。当然、仲間と思われたくないからだが、無駄な努力だったらしい。

「き、聞こえてるよ……調べてみるから……もっと小さい声で……頼むよ」
 絞りだすように言うと、俺はスマホでTwitterのタイムラインを見てみた。

「タワーで待つ……とあります」
 未來だ。さすがは未來、少なくとも俺より検索能力は優れているらしい。俺もしばらくしてその画像を見つけた。その画像には確かに『美人時計』のようなポーズでパネルを持っている赤装束の……たぶん茜の写真があった。
「たしかに、そうらしい」
 そのパネルには『秋葉原のタワーで待つ』と書かれているのだ。

「タワーってどこ!」

 今度はリリスが俺に怒鳴った。

「さ、さっきからなんで俺?俺ついてく側じゃないの~~?」
 そんな泣き言を聞いてくれる人たちではなかった。ああ俺の天使様ってドコにいるのだろう?
「天使?天使なんてもっと怖いわよ?」

 ギクッ

 やっぱリリスは心が読めるんだ。たぶん中途半端に……

「中途半端じゃないわよ!あのときアンタの妄想の中で私にしたことは忘れないんだからね?いーい?挽回しないと、アンタも許さないわ」

 パーフェクト!そうか、そうか、そうか、そうなのか。どんなお仕置きをされるのだろう……

 ドンッ!
 キキキキーーーィッ

 リリスが足を踏み鳴らすと、衝撃が走り、電車が急停車した。
 お、俺の妄想が原因か?

「そーよ」

 ヤバイ、ヤバイ、全力でヤバイ。早く解決して開放されないとヤバイ……そして妄想も禁止だ。よし、茜がドコにいるのかだけ考えよう。
 茜……茜……茜……赤毛の小悪魔っぽい可愛い子だったなあ……そーいえば誰かに似ていたような……あんな子と……

 ドンッ!
 キキキキーーーィッ

「…………ごめん」
「ん?どうした?」
 どうやら千歳には心は読めないらしい。

「とりあえず、秋葉原にタワーって言うと……ブックタワーかなあ……」
 俺がつぶやくとすぐさま未來が網膜検索を始めたように宙空を見つめた。
「アキバ地域にはタワーがつく建物は、概ね4つ、ひとつは名前のみなので削除すると、マンションが1、書店が1、その他1となります」
「その他って……なんだ?」
「コレです」
「コレ?」
「です」
「…………」
 未來が宙空を指さしている。
「あー、未來ちゃん?君の見ているのは脳内映像だと思うんだよね。それ僕達見えないから」
「あ!そ、そうでしたか……なるほど」
「ま、いいや、そこ行ってみようよ」

 未來を先頭にその場所まで行くと、タワーってよりビル?って建物が見えてきた。
「なんだろう?あの人達……」
が、その前には人だかりができていた。

「いた!あの子よ!捕まえて!」
 そして群衆の中央から赤い少女が顔を出し、こちらを指さし叫んだ。
 すると、集まっていた人々は一斉に振り向き、最初は一歩、次に数歩、そして一気にこちらに向かって走ってきた。

「ちょちょちょちょちょ!何これ何~~~!」

 俺達四人は逃げ出した。それを集団が、ほぼ男だけで構成された集団が全力で追いかけてくるのだ。


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(13)赤い彗星

 リリスが戦闘宣言をしたときは驚いたが、しばらくしても周囲に変化はなかった。

「そんで、その暗黒水(ブラスイ)はどんな店員から買ったって?」

 千歳はもったいなさそうに『ユルスギルスの素』の袋を見ながら言った。

「店員さんだよ。ハッピに帽子でよく分からなかったけど、赤髪にメガネ、ソバカスのカワイらしいスタッフさんだよ」
「茜Z(あかねゼッターランド)ね」
「間違い……ない……」
「アイツ、いったいどういうつもりなの?」
「さあ……」

 ふたりが顔を見合わせていると

「赤い……彗星?」

 未來がつぶやいた。

「そうそう、それがあいつのアダ名。っていうか回りにそう呼ばせているのよアホだから。ってよく分かったわねアンタ」

「ただいま入った情報によると、アキバに赤い彗星が現れたとのことです」

 未來が空中をボンヤリと見つめたままつぶやいた。

「お、さすがスーパーアンドロイド!スゴイ情報網だね」
「ハイ!この網膜コンピュータに映るブルーバードアイコンの短文投降情報網はカンペキです!」
「ええと……それって……Twitterなんじゃ……」

 俺もすかさずパソコンで検索すると、たしかに何やら写真とともにたくさんのツイートがあった。そこには、髪の毛からメガネ、服まですべてが赤ずくめの少女が『赤い彗星』と書いた真っ赤な旗を持って写っていた。

「茜……あの恥さらし……死ねばいいのに」

 なんとなくリリスのカラダが震えているようだった。

「しょうがない……わね。向かいましょう……」
 リリスが言うと
「へ?私も?」
 千歳は嫌そうな顔をした。
「あたりまえ……でしょう?4人で……アキバに……行くのよ……」
「いってらっしゃーーーい、帰ってこないでね~~~って、へ?今4人て言わなかった?」
 すっかり彼女たちを追い出して終了と思っていた俺の耳に気がかりな一言が聞こえた。
「そう……4人でなければ……ダメ……」
「あのさ……申し訳ないんだけど、俺、関係なくない?
「関係は……ある……でしょう?……それに……」
「それになんだよ!もう開放してくれよ」
 ついに、言ってしまった。本音を。言えば言えるもんだなあ~俺も……などと思いにふけってるヒマはなかった。

「オマエ、フザケルナよ。ワタシがどれだけ自分を抑えているか分かっているのか?分からんだろ?ん?どーなんだ!」
 リリスの雰囲気が一変した。リリスの肩越しに千歳が、しきりに手を合わせお願いするようなジェスチャーをしているのが見えた。早く謝れって意味だろう。しかし、すでに遅かった、どうやらリリスの感情に火をつけてしまったらし。スゴイ形相で睨みつけられた。

「だいたいな、お前の兄貴というのは、どうやらあのハミルだろ?その弟だというのなら、お前も見つかったら最後だぞ?シンジケートのヤツラに捕まれば闇の中に葬られる。それでもいいのか?よくないだろ?だったらゴチャゴチャ言ってないでついて来い!男のくせにみっともないヤツめ!」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!もうしません!僕が悪いんです!」
 もちろん俺は全力で謝っていた。もう土下座寸前の勢いで。
 すると肩で息をしていたリリスが息を大きく吐き出し、やっとのことで自分を押さえ込んだ。俺の全力謝罪能力には定評があるんだ。

「リリス、ハミルって……あの?」
 リリスが落ち着いたのを見計らって千歳がリリスに聞いた。

「そう……ハミル・ザ・ファントム……よ……まちがい……ない……」
「あのお……よろしければ、そのハミルっての聞いてもよろしいでしょうか?」
 俺は恐る恐る聞いてみた。
「だめよ!ダメダメ!聞いちゃダメ!誰にも聞かないほうが身のためよ!」
 が、千歳に全否定されてしまった。
 そして結局、4人してアキバに向かうことになった。
 道々、千歳に聞いたところによると、リリスが保護したいのはマーティム満載の未來なのらしい。でも、おそらく、未來は俺のそばを離れない。逆に言えば俺を押さえておけば未來は自動的についてくる、そういうことのようだった。たしかに、未來は無言で後ろをついてきていた。

「しかし……少し、離れて歩くワケにはいかないでしょうか?」
「ダメ!」

 今度もリリスに却下された。
 いや、女の子と歩くのが恥ずかしいというワケじゃない。恥ずかしいのはその格好だ。リリスは暗黒魔女だし、未來は某ボーカロイドのような衣裳、まー千歳は比較的まともだが、なんか軍服みたいな姿……これと一緒に歩けるのはアキバくらいだろ?


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(12)アクロス

「と、とりあえず整理しよう。千歳は石とやらをとりに来た。リリスはスマホを届けに来た。ここまではいいよね?」

 沈黙に耐え切れず、俺は切り出した。

「私はそ~だけど、リリスはどうなの?」
「……そんなところ……」

 千歳は『本当かしら?』といった感じに首を横に振ったが俺は先を続けた。

「そもそも、二人が何者でどこから来たのかも気になるケド、一応順番で未來さん?君は何だっけ?」

 俺が尋ねると、千歳もリリスも未來の方を見た。しかし、それでも未來は表情を変えることなく、こう告げた。

「私はアンドロイド。ハルさんによって創りだされた異世代アンドロイドの未來です。目下の目的は……ヒロト、貴方をこの者達から守るためにここに居るのです。得意技はズバリ唄!一曲歌いましょうか?」

「は……い?」

 その場はしばらく沈黙に包まれた。千歳はもちろん、リリスの顔もこわばってゆくのが分かる。だがしかし……俺にはやっとわかったことがあった。アンドロイドで緑髪のツインテール……それで、名前がミクだ……兄貴のヤツの趣味だ。だがしかしだ、すくなくとも兄貴……その名前やめろよな。直球すぎるだろーが!でも、こんな人間そっくりのアンドロイドを作れるのか?兄貴は。

「ちょっと待って……ハルって……」
「俺の兄貴」
 その沈黙を破り最初に話し始めたのは千歳だった。
「私の石って……」
「兄貴に渡した」
「それで……コレを作ったのって……」
「ハルさんです。そして私はコレではなく未來です」
「…………」
「どお……したの……です?」

 困惑の表情があふれんばかりの千歳を見かねてリリスが問いかけた。

「えへへ~~~。さ、私、そろそろ帰ろうかな~」
「どおしたと……きいているのです」
「リリス~~~たしかさ~魔石ってさ~電気通すと……ダメだったわよね?」
「当たり前でしょう!暴走するわよ!」

 リリスの口調が少し変わったが、また自分を取り戻したようにつづけた。

「今は……そんな……話ではないのです。この……未來……さんと兄貴さんがどおしたか?……です」
「えへへ~~~、ミックちゅわ~~~ん、もう一度後ろ向いてくれるかしらん?」

 千歳がまた壊れた。コイツ、どんなキャラしてんだ?
 しかし、未來も言われたまま背中をふたりに向けた。未來よ。君、素直すぎ!

「ほら、ココ。たぶんこのあたり……何か見えない?アンタの魔視(スキャン)で」

 リリスは左目の包帯をとると、右目を閉じながら左の瞳をひらいた。その瞳は赤く光って見えた。そして千歳が指差す未來のクビの付け根あたりを凝視した。

 !

 今度は明らかにリリスの表情が変わった。
「魔石を……発動……させて……しまった……のね」
「わ、わ、ワタシじゃ無いんだからね!コイツよ!コイツ!」
「なんだか分かんないけど俺は関係無いだろ!」
「ウルサイ、ウルサイ、ウルサイーイ!かなりヤバイのよ?アンタ分かってるの?」
「分かってるわけないだろ!何がなんだがサッパリだよ!」

「アブナイ……」
 リリスは昨日の夜と同じ口調でそう言った。
「貴方に迫っていた危機は……これだったのね……でも……おかしい……」
「そう言えばそーね。未來ちゃん、アンタの製造日って?」
 今度は千歳がリリスの言葉を受け、未來に尋ねた。
「昨日」
「昨日?……なんで爆発しないの?」
「さあ……」
「あのさ!誰か分かるように説明してくれよ!」

 混乱に頭が破裂しそうな俺の叫びに応えたのか、リリスは淡々と、独り言のように説明しはじめた。それによると……リリスと千歳はマークゥワイという異界から来たという。ふたりはともに、マークゥワイから持ちだされたマーティムと呼ばれる力を持ったアイテムの回収に来ているらしい。しかしリリスが正規の回収者(アンダーテイカー)なのに対し、千歳は賞金稼ぎ(バウンティハンター)といったところらしかった。そして千歳が密かに持っていた貴重なマーティム、魔石と呼ばれる石が未來のメインCPUとして使われたというのだ。

「だいたい、なんで魔石をこの者に託したりしたのです?」
「だって~、あの日サルベージしてた店に突然サリーマンの連中が現れたんだもの~」
「彼らに渡せばよかったのに……」
「いや、ほら……サリーマンってケチでしょ?」
「ケチって言っても公務員(リーガル)なんだから、指定通り支払うでしょうに……」

 サリーマンというのは、昨日、秋星電影に俺の後ろに居た背広の男達のことだった。彼らは強制捜査官で否応なしにマーティムの回収をしていくのだという。千歳は彼らに渡したくない一心で、俺の荷物に魔石を混ぜ、あとで回収するつもりだったのだ。それがこともあろうに兄貴の手に渡り、しかも使われてしまった……

「でも、問題はそれより、なぜ未來さんが熱暴走して爆発しないか?ね。まあ……してたら、ここら一帯が消し飛んでいるのでしょうけど……」

 そう言いながらリリスが部屋を物色しはじめた。

「なんで……こんなものがここに……」
「なに?なに?リリちゃん何か見つけた?私、帰っていい?」
「いいわよ……」
「え!ほんと?」
「最終的な魔石の所有者にして、未開の地での紛失者(ルーサー)として貴方の名前を登録していいならね」
「や、ヤダな~~~冗談よ、冗談!そしてルーサー登録なんて冗談じゃない!マークゥワイで二級市民扱いなんていやよ!で?何を見つけたの!」

 リリスは俺の唯一のアキバの戦利品『ユルスギルスの素』の袋を持っていた。

「あ!なんで、それがココに!」

 思わず俺は叫んだ。

「これも……あなたの?」
「そうそう、昨日アキバで買わされた……いや、買ってきた入浴剤」
「そう……よかったわね。お風呂なんかに入れなくて……」
「なんで?」
「こんなのに入ったら、絶対零度で死んじゃうから……」
「なに?なになに?って、あ!これ!高純度の暗黒水(ブラスイ)の素!末端価格にしたら……いやいやいや怖い怖い怖い。もうほとんど残ってないじゃない!シンジケートが追ってくるわよ!」
 覗きこんだ千歳が部屋の中をあっちこっち右往左往している。
「未來さん……貴方……これ、飲んだ?」
「ハイ!私が高熱を出しましたところ、ハルさんがコレを飲みなさい。といってくれたのです」
「なるほどね……そして……」
 ガシッ
「あんっ」
 リリスは突然、未來の左胸を鷲掴みにした。
「そして、ここには黒球(ブラガン)が埋め込まれている……脳の代わりに魔石、血液の代わりに暗黒水(ブラスイ)、心臓の代わりに黒球(ブラガン)とはね……」
「あっ 痛いです」
「あら、ゴメンナサイ。未來さん?ちょっと手をあげて『ハデス!』って言ってみてくれるかしら?」
 そう言ってリリスは未來の手を上げた。

「分かりました。ハデスです!」

 ヴォワッフゥ!

 すると真っ黒な光が未來の手から生まれ、闇を切り裂いた。

「ちょちょちょちょ!なにしてくれてんのよアンタ!死ぬトコだったでしょ!」

 その閃光は、ちょうどその線上にいた千春の髪を少し焦がしたようだった。

 千春の叫びも虚しく、リリスは強い口調で言い放った。

「みなさん、良いですか?コレよりココは戦場となります」

「いいわけ無いだろーーー!」

 俺も叫んだ……もちろん心の奥底で……


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(11)第三の少女

「あのぅ……」
「あっ!すーーーっかり忘れてた!君は何だっけ?」

 あまりの展開の速さにすっかり忘れていたが、そ~いえばもうひとり電波少女がいたんだった。

「え!なに?アンタ、人形じゃないの?」
「……………?」

 しかし、千歳もリリスも、未來がそこに居るのが見えなかったのではなく、しゃべりだしたことに驚いているようだ。

「人形だなんて失礼だなあ。人形ってんなら……」

 リリスの方がよっぽどお人形さんみたいだ、と言おうと思ったがやめておいたが、千歳には伝わったようだ。

「え?リリス?イヤイヤイヤ、リリスはこう見えて……」

 リリスは無表情でわかりづらいながらも、心なしか険しい表情で千歳を睨みつけていた。

「い、いやあ?、ははは……なんでもないけど、とにかく、その女、変!リリスもそう思うでしょ?」
「彼女には……生体 反応……ない」
「よね?そーよね?私達に生体反応を感じさせないなんて無理なハズ」
「何言ってんだよ。それよか君たちこそ何者なんだよ」

 変ではあるにしろ、どう見ても未來のほうがまともに見える。

「なに?あんた、そ~いう趣味なの?」
「な!なんだよ!そういう趣味って!」
「趣味は趣味よ!お人形さんごっこが好きなんでしょ!」
「な、何言ってんだよ!あらゆる意味で失礼だよ君は!もういい!出てってくれよ!」

 すると千歳の顔が歪んだ。

「いいわ。アンタ、服を脱ぎなさい」

 何を思ったのか千歳は未來につめよっていった。

「は?だから千歳!オマエが出ていけよ!」

 リリスがいるからなのか、さっきまで刺されるままにしておこうと思っていたのに、俺にしては珍しく感情をそのまま言葉に出してしまった。
 が、それはどうやら千歳には逆効果で、彼女の感情に火をつけてしまったらしい。

「リリス、ソイツ捕まえといて」
「わかった………」

 しかも仲間だと思っていたリリスまでが未來の背後に立ち、彼女を羽交い締めにした。

「え!ちょ、やめろよ」
「子供は引っ込んでなさい!」

 千歳に突き飛ばされると千歳の背中越しに未來が脱がされてゆくのが見えた。未來も特に抵抗する様子もなく、されるがままだった。

「なによ、アンタ、この体は……」
「え?何が?」
「だーかーらー!子供は引っ込んでろ!」

 立ち上がろうとした俺はまた千歳に突き飛ばされた。起き上がった時にはすでに未來は服を着てしまっていた。

「リリス……アンタはどう思う?私はコイツをこの場で破壊してしまうべきだと思うケド?」
「破壊ってなんだよ!物騒だし可哀想じゃないか!」
「はあ~?アンタ、ほんとに知らないの?ホラこれよ!」

 千歳はまた、未來のブラウスの前のジッパーを下ろし、前をはだけさせた。今度は俺に見えるようにだ。

「そ、そ、その胸がなんだって言うんだよ!いい加減にしろよ!」

 そこには透き通るように白い肌に、小ぶりながら形のいい胸があった。

「あ!え?何これ?なんなのよ!」
「擬装ね……かなり高度。よくできている……人形」

 リリスもその肌をみて少し驚いたような顔をした。

「でしょ!危ないわよコイツ。ハーモニーところじゃない。生体均衡(バランス)を壊す存在よ。さあ、破壊してしまいましょ!」
「千歳……ムリ……よ。ワタシたち……の、チカラ……は、生物にしか……効かない……もの」
「ちっ」

「あのぅ~もう、よろしいでしょうか?」

 動じないままの電波系少女未來はユックリとブラウスのジッパーを引き上げた。


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(10)敵か?味方か?そーでもないのか?え?どーなんだ!

 もはや俺の命も風前の灯!と目を閉じていた。が、いくら待っても、衝撃も無ければ痛みもない、ましてや心地良いお花畑も、賽の河原も現れなかった。
 恐る恐る、俺は目を開けた。

 ギャギャギャッ

 驚いた。いや、ふざけてるんじゃ無い。マジで驚いたのだ。
 そこには……例の暗黒少女(仮名)がいた。ま、また変なのが増えた。しかも彼女は出会った最初の時から敵っぽいし……やっぱ、敵……だよね?

「アンタは……モノ・リリス……」

 電影少女も驚きを隠せないようにつぶやいた。

「千歳(チトセ)、アナタ……次元律(ハーモニー)法を……破る気?」

 しかし、暗黒少女(モノ・リリス)は、俺ではなく電影少女を睨んでいた。ふたりはどうやら知り合いらしい。

「い、いやあねぇ~もう、冗談よ冗談!」

 電影少女チトセは、先生に怒られて言い訳をする子供のような顔になって、俺に擦り寄ってきた。

「ね、ね?君、冗談よね?」

 そして、その見た目より大きい胸をフニャンと押しつけてきた。

「い、いやあ、は~、ま~」
「本当?」

 暗黒少女リリスが俺の目を覗きこんで尋ねる。

「よね?」
「はあ~……」

 さらに、押し付けられた胸の柔らかさに俺は逆らえず肯定した。

「そお……アナタが、言うのなら……しょうがない……わね」

 あいかわらずその表情は変化に乏しく、顔色をうかがいにくかったが、なんとなく、不服そうな表情をしたように感じた。

「そーよ!そーよ!リリス!あんたの方こそなんだっての?ハーモニーを乱すつもり?」

 俺が肯定したのをよいことにか、電影少女チトセは語気を強めた。

「ワタシは……コレ……届けに来た……だけ」

 そんなチトセを気にすることもなく、暗黒少女リリスは俺のスマホを差し出してきた。わざわざ届けに来てくれたというわけらしい。

「あ、ありがとう……それに、ゴメン」
「ナニ……が?」
「いや、君を疑ってさ。悪者の仲間だなんてサ」

 なぜだろう。俺にしてはやけに素直にそんなコトを言えてしまった。

「あー!あー!あー!ナニソレ!まるで、私が悪者みたいな言い方して!」
「悪者だろ!悪者だろーが!ナイフ突きつけて殺す!とか言ってさ!」

 なんとなく、暗黒少女リリスの方がチトセより強そうだと直感した俺は『寄らば大樹の陰!』とばかりに強気になった。

「そう……なの?」

 案の定、リリスはチトセを睨んだ。しかし……

 ムギュウ~

 チトセは胸を押しつけてくる。

「い、いやあ~はは」

 だ、ダメだ。このオッパイ攻撃には逆らえない。これは計算なんかじゃない、本能だ。人というものは、いいや、男というものは、本能には逆らえない定めなのだ!

「そう……」

 リリスの目が……痛い。

「そーよ!私は今日からここに住むことになったんだからアンタ帰りなさい!」

 チトセはまた、とんでもないことを言い出した。冗談じゃない。リリスが帰って、こんなのと二人きりになったら殺されちまう。

「へ?」
「そーよね?」
「は?」

 ムギュギュウ~

「は、はい……」

 違う!違う違う違うー!それじゃダメだろ!俺!生存本能を優先しろよ!

「そう……じゃあ……私も」

 しかし、リリスの口からも予想しなかった言葉が飛び出した。

「は?何言ってんの?アンタなんか……え?」

 なんと、黒少女リリスもそ~っと体を寄せつけてきた。

「プッ アンタのその無い胸じゃダメよ!ねぇ~!って……おい!」

 よく分からないそのやりとりのせいで俺の血は頭に登っていたのか鼻血がこぼれだした。

 こうして、彼女達二人との奇妙な共同生活が始まった……かに見えたが…………


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(9)電光石火

「え?俺のスマホ、この街にある!てか、近づいてきてる!!!!」

 気軽な気持ちでひらいた追跡画面のGPSアイコンは、今、まさに駅を降り、うちへのルートを進みはじめているところだった。

「あ、兄貴が?い、いや、そんなコトするワケがない。じゃ、じゃあ誰だ?」

 いつもは冷静沈着な俺様も、この時ばかりは不安になった。
 だってさ、みるみる間にウチに、この部屋に近づいてくるのだ。
 警察……は、落し物を届けてなんてくれないだろうし……

 と、その時!

 ピーンポーーーーン

 チャイムが鳴った。

 この建物はプレハブなだけあってか、ドアに覗き穴などない。だから防犯カメラだの設置しているのだが、昨日から切れたままのようだ。俺は仕方なく、扉を開けた。ゆーっくりと慎重に……
 するとそこには

「石、返してくれる?」

 秋星電影の金髪少女が立っていた。

「え?あ、き、君はあの時の」
「あーゴタクはいいから、早く石を返して!」
「ゴタクって……」

 電影少女は、昨日の印象とは違って乱暴な口調だった。

「それに石って?」
「CPU、中央演算処理装置、人呼んで石よ。昨日アンタに預けたでしょ?」
「え?あれはくれたんじゃ?てか兄貴に渡しちゃったよ」
「じゃ、その兄貴とやらはドコ?」
「そ、それが……」

 俺は正直に朝起きたら兄貴が行方不明だと告げた。

「消えた?チッ なんてこと……まあいいわ、あんた死になさい。このことを知ったからには死になさい」

 電影少女はサラッと言い放った。

「はい?な、なに?この展開!俺、イヤだよ?嫌いだよ?鬱展開とかさ」

 という俺の声を聞きもせず電影少女はナイフを取り出した。

「え!しかもナイフ?ナイフなの?いやいやいや、なんかそんな普通なのさらに嫌だよ。魔法とか、光線銃ならともかく、あ、超能力でもいいからさ、頼むよ。そんな普通のナイフで刺すとかやめてくれよ!」

 どうにも俺も混乱していた。そんな現実離れしたことを言えば助かるとでも思ってるように。

「ウッサイ!やっぱアンタなんか知ってるわね!暗黒水(ブラスイ)も、黒球(ブラガン)も無いから魔力(マーリキ)は使えないのよ!」

 しかし、なぜだか電影少女は慌てた様子を見せた。

「死ね!無残に死にやがれ!」

 ギャッ

 ナイフを振り上げた電影少女を見ると俺は思わず目を閉じてしまった。そして俺は、ヤラれた……そう思った。普通に考えれば男と女、もしかしたら戦えば男である俺のほうが強いのかもしれない。しかし……
『闘いとは気の力でするものだ!』
 と、どこかの有名な格闘家が言ったとか言わないとか……
 まー気力で負ければ勝負にならないのは間違いない。そして……自慢じゃないが俺は気が弱い。

 すなわち……死!



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(8)失踪

「あ!なんだよチクショー!おい、兄貴!パソコン貸してくれ!」

 家に帰ってパソコンを立ち上げようとするも、まったく立ち上がらなかった。ブルースクリーンにさえならない……ってことは……ご臨終か?ってコトで、兄貴のパソコンを借りようと兄貴のプレハブのドアを叩いた。
 が、反応が無かったので、隠し鍵を使って、ドアを開けた。兄貴のやつ、あんなにセキュリティにうるさいのに、合鍵の隠し場所はポストの下に磁石で貼り付けるというお粗末さなのだ。

「おーい兄貴…………て、あれ?えーーーっ?居ない?てか、君、誰?」

 そこには兄貴の姿はなく、一人の少女が座っていた。緑がかった青い髪をどこかで見たことがあるようなツインテールにしている。しかし、見知らぬ少女がいるというコトよりも、兄貴がいない方が不自然だった。兄貴が家にいないなどここ数年無いことだ。

「あ、兄貴は?」
「ハルさんは行ってしまいました」

 おっと、遅ればせながら兄貴の名前はハルだ。泉谷ハル、それがこの物語の迷脇役、変人兄貴ハルだ。
 
「どこに?」
「虹の彼方に」
「は?」

 なるほど、電波系な彼女だ。

「君、名前は?どうしてここにいるの?」
「私の名前は未來。貴方のお世話をするためにここにいます」
 ええと……なんか混乱してきた。彼女の件は後にしよう。この手の輩は事実を聞き出すのにえらく時間がかかるに決まってる。

「兄貴、パソコン借りるぜー。言ったぞ?言ったからな?」
「どうぞ」
 未來とやらが答えたが、ここは無視だ。

 俺は無視してクラウドストレージにアクセスした。
「ワッフルIDを入れて……」
 と、ここで俺は気がついた。
「てかさ、ネットでスマホ追跡できたような気がする!」
 
 そうだ、最近のスマホはすげーぜ。まるでスパイ映画の追跡装置のようにスマホが追跡できるんだからな!まあ、電源入ってればだけどーと、追跡ページを開いた。

 しかし……それは新たな恐怖の始まりを告げるものだった…………


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(7)ロスト・チルドレン

 翌朝、目を覚ますと……いや、目を覚まし損ねるとスマホが無いことに気がついた。いつもスマホのアラームで起きていたから寝過ごしたんだ。
 ヤバい。ヤバいぞ。あの中には貴重な友人のアドレス……はないけど、死んでほしいクラスメイト一覧や告白できたらしたい女の子の家までの最短ルートなどちょっと流出するといい感じに人生が終わりそうな情報が満載なのだ。
 そんなこんなでプチパニクっていると、ドアの下の隙間にメモ用紙があるのに気がついた。

『スマホは預かった。返して欲しければ店までとりに来い。
 って連絡が入ったぜ。スマホ、忘れてきたのか?ドジめ』

 あ、兄貴だ。兄貴の字だ。チキショー昨日の時点で言いやがれ!だ。

 俺は不安にかられたままその日一日をなんとか過ごすと、放課後ソッコーでアキバに向かった。


「おかえりなさませ!ご主人様~~」

 あ、ああ、そうだ。俺はまたアキバに戻ってきた。
 アキバの駅に降り立つと、俺はすぐに秋星電影に向かった。

「え?いない?」

 しかし、今度こそ店のオヤジを捕まえて、金髪看板娘のコトを尋ねると、そんな者は居ない、というのだ。

「え?昨日居た娘だよ?こうー金髪で明るい笑顔のカワイイ娘」

 しかし、そもそも女のスタッフなどいた事がないと言う。仕方がないからスマホの件を聞いてもそんな物はないということだった。腑に落ちないけど、そうも言っていられない俺は、ふと、暗黒少女(仮名)を思い出した。なんとなく彼女は何もかも見透かされているようで会いたくはなかったが、逆に彼女ならスマホの件もわかるのではないか?そう思い直し、店を探したが、店を見つけることはできなかった。
 しかし、ひとつだけわかったことがある。

「やはり……牛すじ入りのほうが美味しいんだ。おでん缶は……」

 そんなコト言ってる場合じゃない。場合じゃないが……どうしよう?

「あっ!」

 思わず大きな声を出し、アブね~なコイツ、の視線で見られてしまったが、俺は思い出した!思い出したのだ!
「そうだ、あの時、暗黒ノガチャの写真を撮ったハズだ。そう、スマホにはGPS機能がある。だから写真のジオタグを見れば場所が分かるのだー!」

 って、待てよ……そのスマホを探してるんだった。あれ?本末転倒?卵が先かニワトリが先かになってる?

「いやいや待て待て。時代はクラウドだ、そうだ。ネットに自動でバックアップされてるはずだ!」
 いろいろ思い出した俺はひとまず家に帰ることにした。


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(6)マイスイートプレハブルーム

 アキバから黄色い電車に揺られて約一時間あたりに俺の家はある。そこはかの新撰組の土方歳三を排出したとか、新撰組の副長を出したとかなんだかんだで有名な地域だ。そこに俺と兄貴はふたりで住んでいた。いや、親と死に別れたとか、生き別れたとか、そーいうワケでなく、親は離れに住んでいる。逆か。俺と兄貴は離れのプレハブのような建物に住んでいた。基本的に昔から兄貴は引きこもって、実験だかなんだかをしている。夜でも構わずやるものだから追い出されたんだ。俺はその巻き添えで二個建てられたプレハブ部屋の片方に住んでいるというわけだ。

「おい兄貴!帰ったぜ!」

 ガシャガシャドタバシャン

 部屋の中から慌ててモノをひっくり返したような音がする。

「おかしいなあ~警報はどーしたんだ?」

 兄貴は薄々お気づきのように、少し変わっている。いや、少しじゃないか。まあ、一般的に言えば変人だ。その変人兄貴は世界のあらゆる一般的な変人と同じように、いや、それ以上に用心深く、プレハブ小屋の周囲にありとあらゆる警報システムを設置している。もちろん自前だ。人の耳には聞こえない超高周波警報や赤外線警報ライトなど、なんの役に立つのか分からないアレコレで完全防備している。それがドアの前まで俺が来たのに気づかないなんて、あり得ないことだった。

 ガチャリ……
 扉がうすーく開いて兄貴が顔を少しだけ出した。

「なんだヒロか。なんか用か?」
「な・ん・だ・と!てめーのせいで俺は大変だったんだぞ!」
 言ったものの、そんなのは通常運行だ。さっき言ったことも時々忘れちまう兄貴だから、こんなコトで一喜一憂しちゃダメだ。

「なんか用かだと?ほらコレ!例のブツだ」
「ん……ああ、そうか……そうだったな。助かった。じゃな」
 兄貴の野朗、薄く開かれた扉の隙間から俺から品物を受け取ると、そのまま扉を閉めやがった。

「じゃねーし!入れろよ!降り積もる話があるんだよ!」
「ん?ああ今度な。今日は、今は忙しいんだ」

 俺はアキバ話を三倍盛りくらいで伝えようと、帰りの道道考えていたというのに一瞬で拒否られた。

「ちっ わかったよ!いいか?貸しだぞ?貸し!」

 どうせこうなったら扉を開けるような兄貴じゃない。俺はスゴスゴと自分のプレハブルーム、マイスイートプレハブルームに帰った。
 その日の兄貴はやはり変だった。夜中に音がしたんだ。誰かが来たらしい。なるほど、そのためにセンサーを消していたんだろう。しかし、兄貴の部屋に人が来るなんて珍しい。というか初めてじゃないのか?と思いながらも俺はいつの間にか寝てしまった。


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現在の登場人物紹介(2)


『(10)敵か?味方か?そーでもないのか?え?どーなんだ!』あたりまでの人物紹介修正版
その辺に達するまでは読まないでね!って別にいいけどさ


●泉谷ヒロト(いずみたにひろと)
 物語の主人公。アニメや漫画が好きで、少し内気に見えるが内面だけは強気という、どこにでもいそうな高校二年生。ちなみに彼女はいない。
 実の兄貴にお使いを頼まれ久しぶりのアキバに来たが……

●泉谷ハル
 ヒロトの実の兄。ヒロトはニートと言っているが、一応自分で稼いでいるため、厳密にはニートではなくヒッキー。ただし、極度のひきこもりでほとんど外に出ることがない。自宅でなにやら実験をしているらしい謎の人物。現在疾走中。

●電影少女千歳(チトセ)
 秋葉原を代表する、部品ショップ「秋星電影」にいた金髪少女。見た目に反し、さまざまな機器に精通している。常に眩しいほどの笑顔。
 それが一転して、ナイフを振りかざしヒロトに襲いかかった。
titose


●フィギュアショップの店員
 プチコスな制服姿のフィギュアショップ店員。赤い髪にメガネ、そばかすがキュートな女の子。もしかして、無関係?

●暗黒少女モノ・リリス
 『魔界入口』というショップの店員だと思われる。全身黒ずくめで髪留めはコウモリの羽、左目に眼帯といった魔女的少女。冷たい目に冷めた口調。
 ヒロトがなくしたスマホをわざわざ届けてくれた。千歳とは知り合いらしい。

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●未來
 兄貴の部屋にひっそりいた電波系少女。ヒロトを守るためにここにいるという。



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登場人物(抜粋)
●泉谷ヒロト(いずみたにひろと)
 物語の主人公。どこにでもいそうな高校二年生。

●泉谷ハル
 ヒロトの実の兄。自宅でなにやら実験をしているらしい謎の人物。

●電影少女千歳(チトセ)
 秋葉原を代表する、部品ショップ「秋星電影」にいた金髪看板娘的少女。

●フィギュアショップの店員
 フィギュアショップ店員。赤い髪にメガネ、そばかすがキュートな女の子。

●暗黒少女モノ・リリス
 『魔界入口』というショップの店員だと思われる。全身黒ずくめで髪留めはコウモリの羽、左目に眼帯といった魔女的少女。

●未來
 兄貴の部屋にひっそりいた電波系少女

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